「奈良朝の政変と道鏡」読了
読み応えがありました。
数年前に大分の宇佐神宮へ行ってから、道鏡に関心が強まりました。世情いうところの『怪僧』『妖僧』とか『女帝をたぶらかした』という先入観は、私にはありませんでした。
本書の述べるところは「道鏡を天皇にするという宇佐八幡宮の託宣は、宇佐八幡宮の派閥争いなどの宇佐八幡宮内部等状況から生まれたもので、道鏡はそれによって、舞い上がった。しかし称徳天皇は情において道鏡に理解を示しても、天皇としては『それはない!』と冷静に受け止めた。」ということになるでしょうか。事実はどうであったか?難しいのでしょうが、本書の主張には説得力があります。筆者の集大成の作であるように受け取りました。
ただ、ひとつ残念な点があります。栃木県にある道鏡の墓とする「道鏡塚」に関する記述です。
『いま、龍興寺(栃木県下野市)境内にある塚が道鏡の墓といわれ、その生涯をひっそりとこんにちに伝えている。』
としていますが、道鏡がどこに葬られたのかは、記録がありません。特別な人としてではなく一般人として葬っているから、墓はわからないのです。ましてこの塚は、時代も合わない古墳です。著者も承知しているはずです。その点はきちっと記述して欲しかった。
称徳天皇の陵もわからなくなっています。(宮内庁の定める陵は、まったく違っています)民家の下になっている可能性すらあります。
奈良時代は、血みどろの政変劇が数多くあった時代です。その痕跡の多くが地下に眠りわからなくなっています。これが歴史だと思っています。
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