吉村昭“夜明けの雷鳴 医師高松凌雲”
吉村昭の“幕府軍艦「回天」始末”は、明治維新で江戸城無血開城後、幕府の榎本武揚の艦隊が箱館戦争(“函館”はこの戦争の後、新政府によって文字を変えられました)で壊滅し、五稜郭も開場するまでを描いた歴史小説です。その中に従軍医師ともいうべき高松凌雲がちょこっと出てきて、きらっと印象には残っていたのですが、「賊軍の最後の指導者」が後に明治新政府の大臣にまでなった榎本武揚との対比でいえば、私にとっては無名の医者でしかありませんでした。
そしてようやく“夜明けの雷鳴”を読みました。高松凌雲・・・無名の医者・・・・・・多くの方にとってそうでしょう。私にとっても今までそうでした。ですが、幕府方の医者として、大動乱を信念を貫き通して生きた生涯は、誇るべき日本人そのものです。吉村作品はどれも素晴らしいのですが、つい目がうるうるしてしまったのはこの作品が初めてです。吉村作品は「逃げまくったり、志が行き着いた先は、心を明るくしてくれるものではない作品が多い」のですが、この小説の主人公は天寿を全うします。その生涯に感銘します。荒っぽい言い方ですが、太宰治の“津軽”にどこか似た雰囲気を持つというのが印象です。お薦めの作品です。
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